古典文学の冒頭を読む。②『平家物語』
さて、冒頭シリーズ第二弾は『平家物語』です。
『平家物語』は鎌倉時代に成立(したとされる)、平家の姿を描いた軍記物語です。
この作品の成立年代は定かではなく、少なくとも延慶2年(1309年)ごろには成立していたとされます。また、『方丈記』から引用された表現が見えることから、健暦2年(1212年)以降に書かれたものということもほぼ確実です。また、作者も定まってはいません。内容は、平家の栄華から没落まで、勢いを失っていく平安武士たちと新たに勢力を増す武士たちの姿を美麗な文で書き綴ったものです。冒頭部分はあまりにも有名ですが、とりあえず見ていきましょう。
*原文
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
たけきものも遂には滅びぬ、ひとえに風の前の塵に同じ。
*現代語訳
祇園精舎の鐘の音には、
諸行無常、つまりこの世全ての現象は絶えず変化するものという響きがある。
沙羅双樹の花の色は、
どんなに勢いのある者も必ず衰えるという真理を表している。
世が栄えて得意になっている者も、いつまでもその栄華は続かず、
まるで春の夜の夢のようである。
激しく盛んな者も最後には滅び、
風に吹き飛ばされる塵と同じようである。
いかがでしょうか。私は、数々の凄惨な戦いを見てきたからこそ如実に書ける、この凄まじい無常観に何度見てもただ茫然とするばかりです。
しかしこれを後退的な、ネガティブな文だというのは、一概には言えないと私は思います。この世が無情であることに違いはないけれど、その中でも輝かしく生きて行こうという前進的なものとして捉えるべきなのではないかなと、そう思うのです。
みなさんがどう思うかはみなさん自身によりますが、ぜひ多角的な見方からこの文を読み取ってみてはいかがでしょうか。